真の楽曲派()として語るしかないですね。近日中には…! #Peing #質問箱 https://t.co/l94IDRJZTN
— さやしのポッドキャスト🎧 (@IKS03) 2020年11月7日
ということで。
2010年代以降、地下アイドルは実質飽和状態であり、グループの数に対してオタクの数が足りていない。いわゆる"量産型アイドル"ばかりになっており、各事務所が差別化を図ろうと色々なコンセプトで立ち上げてはいるが、地下アイドル業界に優れたプロデューサーは多くなく、結果的に没個性的なアイドルばかりになっている。
オタク側も個性的なアイドルを求めているわけではなく、地下アイドル特有の”楽曲の湧きやすさ”、”(物理的な)距離の近さ”、”接触対応の良さ”、”繋がりやすさ"で応援するグループを決める傾向があり、そのニーズに対応しようとアイドル側も最適化を迫られ、結果的に地下アイドルは"安いキャバクラ"と化しているところが多い。
そういう現場を、オタクたちは自嘲の意味も込めて”限界現場”と呼ぶのだが、限界現場のなかにも、多少の推し補正はあれど、ステージが輝いてるグループもある。
そういうグループはどこで差別化できるかというと"楽曲"である。
「楽曲が良くても売れてないグループはたくさんいる」という意見もあるだろうが、音楽は人の記憶に残るので、セールス枚数に関係なく、良い曲をドロップできるというのはそれだけで価値があるし、音楽の素晴らしさだと思う。
前置きが長くなってしまったが、ハープスターが他のグループと差別化できてる部分の一つに曲がある。2020年11月現在、ハープスターには12の持ち曲があるが、これを時系列で振り返る。
ハープスターを初めて見たのは2019年4月13日、今は亡き浅草ゆめまち劇場でおこなわれたデビュー後2回目のライブだった。そこで披露されたのが「アストライアー」。ピアノのイントロから始まり、サビにかけて徐々に盛り上がる壮大な楽曲。サビの歌詞で「神のみぞ知る世界」という言葉が出てくるが、昨今のアイドルポップスの世界観はだいたい日常の半径数メートル「君と僕」の世界で完結することが多いので、初めて聞いたときは「スケールでけえな…」と思ったことを覚えている。そしてグループと同名の「ハープスター」。2分にも満たないこの曲も、静かな始まりから一転、倍テンで一気に駆け抜ける。「モノクロの虹」、「Piece」と言い、初期の楽曲はメロコア・ポップパンクの流れを組んだ曲が多い。
一方、メンバーからの評価はイマイチ高くない「あの日の言葉」。「夕焼け小焼けに染まってく」という童謡のようなフレーズが妙に耳に残るこの曲は、ライブでは箸休め的なポジションになりがちで披露される回数こそ少ないが、Teenage FanclubやBelle and Sebastianのような哀愁誘うシンプルなギターポップ/ネオアコで、個人的に初期楽曲のなかでは一番好みである。
そして、今のハープスターの方向性を決定づけたと言っても過言ではない「君だらけ」。メロディーの良さもさることながら、歌詞がとても良い。恋愛中のようなタイトルではあるが、「ただ大好きでした」「最後の夏化粧」という歌詞からも分かるように実は失恋ソング。ただ、恋愛における普遍的なメッセージも含まれてるし、ちゃんとオタクのガチ恋マインドも反映されており、曲としての完成度が高い。同業者であるアイドルや、ほかグループのオタクからも評判の高い一曲。
ハープスター の「君だらけ」はニジマスの「ゼンキンセン」、まねきの「君わずらい」並みのアイドルアンセムになるポテンシャルを秘めてるので、ぜひそこまで育てて欲しい
— さやしのポッドキャスト🎧 (@IKS03) 2019年9月15日
そして、去年のちょうど今頃初披露された「七色のストーリー」。
「君だらけ」が王道の恋愛ソングだとするなら、こちらは人生の応援歌。「七色」というタイトルからも分かるように、メンバー7人に対する応援ソングとなっている。「敵は昨日の自分なんだ」というBメロ終わりから「今しかないときを 二度と戻らない過去の自分 プライドは全部捨てて ここから始まっていく七色のストーリー 道を切り開こう」と続くサビの歌詞は、まさにアイドルとして頑張ってる途中の彼女たちに向けられたメッセージであり、彼女たちのストーリーの末席に参加させてもらってるファンからしても共感しやすい楽曲になっている。
本田ひまりは自身のブログの中で、
「出会えたキセキ かけがえない存在」という歌詞をヒカルと2人で歌っていて、そこが1番のお気に入りポイントです。挫けそうな時何度もヒカルちゃんに助けられたことを毎回のライブで歌いながら思い出します。
と語っており、実際にメンバーのなかでも絆を強くする曲としての役割を果たしている。
落ちサビの「君との思い出がいつの日にか過去になっても 僕のこと忘れないで 輝くステージで一緒にいた奇跡だけを いつまでも思い出して」は、人生の一時しかできないアイドル活動の刹那さとその奇跡を味あわせるには十分で、解散ライブの最後にやったらたぶん泣く。
余談だが、イントロ含め構成が「夜明けBrand New Days」と完全一致なので、オタクのDNAに刻み込まれたリズムであり、コロナ禍じゃなければ「イェッタイガー」しやすい楽曲となっている。
(7年の活動期間の集大成であるラストライブのこの動画、ベビレ通ってなくても泣けるので見たことない人はぜひ見てほしい)
ハープスター唯一のダンスミュージック「アンビション」。このあたりから、作風に若干変化が見られる。
高音と低音を行ったり来たりするメロディーに加えて、4つ打ちのビートなので、しっかりリズムをとれてないと、歌もダンスも他の曲以上にバラバラに見えてしまう難易度高めの曲。ライブで披露する際は、坂東沙季が一人生歌で頑張っていたが、他のメンバーも相当頑張らないと厳しい。いい曲なのにもったいないとずっと思ってる(急に辛口)
ハープスター唯一の歌謡ポップス「クレッシェンド」。
@sayashino ハープスター/クレッシェンド(秋葉原カルチャーズ劇場、2019.12.31)
♬ オリジナル楽曲 - さやしの
(↑TikTokにハープスターの動画をちょくちょくアップしているので、よかったらフォローしてください)
こちらはダンスミュージックでもなく、これまでのような激しいバンドサウンドでもなく、最近の地下アイドルではなかなかお目にかかれない80年代アイドルポップス調。
地下アイドルのファンは楽曲にコンビニエンスな盛り上がりを要求するので、盛り上がらない曲はお呼びでないかもしれないが、日本人のDNAに流れているメロディラインなので、耳馴染みしやすい。
この曲は歌詞の内容が大人っぽいので、それなりの表現力が求められる。アイドルがかわいいのは絶対条件だが、かわいいだけでは物足りなく、エロチシズムも必要である。
高砂ひなたがセンターを務める「オーロラトラベル」。高砂本人はライブであまり盛り上がらないんじゃないかって言っていたが、アニソンみたいなノリの曲なのでそんなことはないと思う。この曲の最後の「目撃せよ」のときの高砂の指差は見てて気持ちがいい。
そして現在の7名体制になって初めての楽曲「ありきたりな言葉よ、刺され」。
11/3(火祝)
— ハープスター (@HARPSTAR_info) 2020年11月6日
ビジュアリズム Vol,1
@白金高輪SELENE
『ありきたりな言葉よ、刺され』1番公開✨ pic.twitter.com/RW7NEZV1GB
フリークから提供されたこの曲は、今までのハープスターの路線を踏襲しつつも、新しい風を吹き込んでくれた良曲だと思う。
ロック調のサウンドに、エモーショナルなメロディライン、サビのフリコピのしやすさは、BiSHのオーケストラを想像させる。「君だらけ」に次いでアンセムになりうるポテンシャルがある。
6分近くとハープスターにしては長い曲だが、「ピンチをチャンスに マイナスをプラスに ありきたりな言葉だけれど ワクワクする様な日々になりますように」というフレーズをひたすら繰り返すこの楽曲は、代わり映えしないオタクの面々、繰り返されるライブと特典会、メンバーの繋がり/卒業/脱退など、ルーティン化されたアイドルの日常に希望を込めた祈りの曲に思う。
番外編
最近徐々に湧き曲として認知を広げている「サカサラブ」。もとはフリーク名古屋の#ジューロックというグループの曲だが、ハープスターもかなりの割合で披露している。(MAXは単独公演内で3回披露)
フロアが盛り上がりやすい曲調であるのはもちろん、片思いにおける一方通行の想いを「サカサになればいいのにな」というメタファーで、ガチ恋の心情を表現している。
Cメロの「嫌いになられるのは簡単だけど 好きになられる大変だね」は好きすぎてつい説教してしまい嫌われるオタクあるあるだし、落ちサビの「サカサラブ こんなにキミのこと好きなのに 一方通行もどかしすぎて サカサラブ 君にこの想い伝われ サカサになればハッピーエンディングなのにな」は、ガチ恋オタクのピュアな願望を見事に言い当てている。
加えてこの曲はフリがよくできている。サビの最後で矢印を作った指を上下逆に表現する部分があるのだが、これを推しの目の前で振りコピすることによって、気持ちのシンクロ状態を強制的に作り出す。
アイドルの曲・ダンスというのは、ある種の宗教的(儀礼的)意味合いも含んでいることが多いのだが、この曲はまさに心(ガチ恋)・技(レス)・体(振りコピ)が一致した曲であり、ストロング缶をキメて推しジャンした暁には、あっという間にバキバキになってしまい、特典会で何ループもする羽目になってしまう、ガチ恋にとっては劇薬のような曲である。
ちょうどこのブログを書いてる頃、「メンバーもどの曲をやるか知りませんライブ」というのが行われ、そこで久しぶりに披露された坂東沙季作詞のソロ曲「Breaking My Heart」(生誕ぶり2回め)
歌唱力に強みを持つ坂東沙季だからこそ歌えるソロ曲ではあるが、グループで活動している以上お披露目の機会が少ないのが残念。
自己肯定感がなくなった時は歌詞作れそうなくらい色んな言葉や感情が頭の中をよぎるからいつか作詞とかやってみたい〜
— 坂東 沙季 (ハープスター) (@saki_harpstar) 2019年11月13日
坂東沙季が作詞しているところに注目してほしいので、歌詞を引用したいが、本人曰く「歌詞を書き換えたい」らしいので、本人の名誉のために引用は控える。(余談だが、さきちゃんは配信などで漢字を知らない大学生として知られているが、この歌詞が書けるならそんなア●でもないと思うので、たぶんビジネスバ●)
以上12曲を振り返ってみた。
最近はライブのあとに「ハープスター」でエゴサすると「曲がいい」というツイートをちょこちょこ見かけるようになった。
先述の通り、アイドルの楽曲は曲としての良し悪し以外にも、推すという行為を増幅させる装置としての役割もある。AKB48の「大声ダイヤモンド」のサビなどはまさにイイ例であるが、アイドルソングにおける「君」はオタクから見ればアイドルであり、「僕」はオタク自身なのである。そのようなオタクとアイドルの共犯関係を肯定してくれる音楽にギミックなどは必要なく、ひたすら踊れる、叫べるだけの音楽が求められて久しいが、ハープスターはその風潮とうまく距離が置けているのではないか。
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