Modern Age Idol

ハロプロ/AKB/原宿駅前パーティーズ/ニコモ/子役。たまにアイドル業界のことについて考えます

映画「子宮に沈める」を見てきた。

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久しぶりの一人映画。

朝10時半からと夜の21時からしかやっていなかったので、混雑を避けて朝の部へ。

場所は新宿 | 映画館 | ケイズシネマ

 

ガラガラだった。

センセーショナルなタイトルと、映画のあらすじだけで見にきた。

なかなか帰宅しない夫、俊也を待ちわびる娘の幸、息子の蒼空に「もう少し待とうね」と言い聞かせる由希子。
良き母であろうとする由希子は、家事、育児を1人でこなす毎日。
俊也に別の女の影を感じる由希子は、久しぶりに帰ってきた俊也を自分に振り向かせようとするが拒否され、一方的な別れを突きつけられる。
離婚後、新居のアパートで3人での生活が始まる。若くして結婚したこともあり、学歴や職歴もなく、医療資格受験の勉強をしながら長時間のパートをし、シングルマザーとして2児を養う事になる・・・。

ここからネタバレ。

物語は母親の生理のシーンから始まる。

(女性に育児を押し付けるわけではないけど、子どもを埋めるのは女性だけ、というメタファーじゃないかな)

次のシーンはロールキャベツを作るシーン。鮮やかに茹でられたきれいなロールキャベツ。

母親はとても素晴らしい母親だった。献身的。料理もするし、子どもの面倒もちゃんと見る。子どもにとても深い愛情を注いでいた。娘にあやとりを教えていた。子どものためにマフラーを編んでいた。

父親がある日帰ってこなくなる。戻ってきたと思ったら、荷物を持って二度と戻ってこなかった。

初めは、父親がいないながらも、いい母親を演じていた。

 

しかしその生活は長くは続かない。

母親には頼れる友人も、信頼できる家族も、見守る隣人もいなかったのだろう。

そういう人がいればこんなことにはならなかったはずだ。

悪夢は常に結果でしか語れない。

 

生活はだんだん困窮していき、ある日母親は突然出て行く。子ども二人を残したまま。

娘は「早く帰ってきてね」と言う。母親は「早く帰ってくるね」と言う。娘が好きなオムライスではなく、大量のチャーハンを作り置きしていく。

母親は部屋に目張りをして出て行く。

 

そこから悲惨な3歳の娘と1歳の息子の生活が始まる。

部屋を目張りされているので、トイレにもいけない。玄関から外に行くことも出来ない。二人は母親の作り置きしたチャーハンと、わずかな食料で生活していく。

パンツを履き替えることも出来ない。姉は頑張ってゆりカゴの弟をおろして、おむつを変えようとするが、力及ばずおろすことすらできない。食料がそこをつく。缶詰めを包丁であけようとするが、3歳の子どもできるわけがない。ハエが沸く。臭いが充満する。そのうち弟は衰弱して行く。姉が話しかけても反応しなくなる。姉は弟が死んだことに気づいていない。

 

弟の死体に虫が沸く。食料がそこを尽きる。粘度でつくった見せかけの料理とマヨネーズのボトルに水を入れて飢えをしのごうとするがままならない。

姉は今にも衰弱死そうだった。

 

そのとき母親が戻ってきた。

「ママ遅いよ」と娘は言う。母親は無言のまま部屋の掃除を始める。

弟の死体からウジ虫を取り除く。一通り部屋を片付け終わると、そのまま弟の死体を洗濯機で洗う。死体は透明な袋で包んで、ガムテープで顔をぐるぐるにまく。

母親は風呂場に水を貯め始める。娘を風呂に入れるのだろうか。

娘はそのまま風呂場で殺される。溺れた娘の死体を引きづり、身支度を整える。

 

母親は二人の死体をダイニングに仲良く座らせる。首にはあみかけの赤いマフラーを巻いて。

母親はパンツをおろす。二人の子どもに巻かれた作りかけのマフラーから出ている毛糸の先の編み棒で、自慰行為を始める。涙が止まらない。そのまま編み棒は母親の子宮のなかに沈んで行く。*1

二人の死体は整頓された部屋の真ん中でレジャーシートでくるまれる。まるでロールキャベツのように丁寧に包まれる。レジャーシートの色はあざやかなキャベツ色だった。

 

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これは実話だ。

大阪2児餓死事件 - Wikipedia

母親には懲役20年の刑が言い渡されている。

普通に考えれば母親の育児放棄で子どもが二人死んだということになる。

実際そうだが、この作品は別の視点を与えてくれる。

手を下したのは母親だが、一体誰が母親にそうさせたのか、ということである。

母親の精神年齢が幼かった、母親の資格がなかった、幼少期に虐待された体験が原因だ、など、母親のせいにすることは簡単だ。

だけどこの母親は実際手厚く子どもを育てていた。愛情あふれる母親に描かれていた。じゃあ出て行った父親が悪いのか、助けない親が悪いのか、育児という行為を母親のものである、と無意識にプレッシャーをかける社会が悪いのか。

答えはない。

きれいごとは言いたくないが、一人一人が意識することによって、救われる命があるはずだ、と思わせる作品だった。

母親や子どもに特にフォーカスすることなく、徹底的に「家」という俯瞰で映像化することによって、複数の視点が得られる構造になっている。

 

50日間母親の帰りを待ち続けたまま亡くなった子どもたちには、なんと声をかけたらいいのだろうか。

緒方貴臣監督2013年最新作『子宮に沈める』映画公式サイト

母親を子宮に沈める社会 ――大阪二児遺棄事件をもう一度考えるために | SYNODOS -シノドス-

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*1:2014.08.16 追記:自慰行為ではなく新たに授かった命を堕胎していたとのこと